映画9　『ミセス･ダウト』より

女の子なら誰でも結婚願望はあると思う。

そんなとき、貴女は夫を選ぶのに何を基準にする？

美男子がいいのかな?　顔をだけじゃない、学歴も高くって、社会的にも経済的にも全てがハイクラスな人を望む？

私にはもう、そんな権利はないけれど、もう一度チャンスがあるものなら、今でもシンデレラ願望は大いにありです。

今でこそ女性は仕事を持ち、社会的にも経済的にも、自立をしてバリバリ働いているけれど、私の適齢期の時代は妻は家庭にあって、ひたすら家族のために家を守るというのが良妻の条件だった。

だから私も“箱入り奥さんに”収まってしまったわけ……古い価値観よね。

自分では、経済的にも社会的にも自立できる基盤がなかったのも理由の一つだけれど、とにかくシンデレラ願望は強かった。

願望は願望で終わってしまいそうだから、せめて家事から開放されたい。ヌカ味噌をかき混ぜながら、自分に自立できるだけの基盤があったらいいのに……と、毎日そんなことを考えている。

つまり今の私は、男女の関係が逆パターンだといいなぁ、なんって考えているのよ。

これも『ミセス・ダウト』を見てからの話。

“B級夫"……女性より力のない夫（男）をいうらしいが、芸能界を見ればそんなのいっぱい転がっているじゃない。要するに古い価値観がいまだ残っていて、女はいくら自分にキャリヤがあっても、選ぶ相手の社会的､経済的ランクが低いと“B級夫"を掴まえたと言われてしまう。

その逆にハイクラスの男性を選べば、玉の輿と騒がれ、その話題性で女性の人気はぐっと高まるというもの。

どちらのパターンにせよ、対等にやっていけるなら、そして何よりも愛があれば、世間の評価など気にする必要なんか全然ないんだけれど……

クリス･コロンバス監督『ミセス･ダウト』の主人公も、“B級夫"の典型的存在だと思う。この“B級夫"を演じているのは、ロビン・ウィリアムズ。

『ガーブの世界』や『レナードの朝』で、堅実な役柄を見せたロビンである以上に、エンターテイメンとな芸人ぶりでスクリーンを笑いの坩堝に誘う。

お笑いにのせられて、この映画の持つテーマが後方へ追いやられている。その点、少々残念だ。

単純で飾りっ気がなく、それでいてお人よしのこの男､本来の職業は声優……でも、アニメーションで小鳥のアテレコ中、小鳥がタバコを加えるシーンで、思わずタバコの有害性を訴え首になる。

いつもそんな調子だから仕事が続かない。

怠け者というのではないが、お金を稼ぐことなど真剣に考えていない……そんな困った夫。

サリー・フィールド扮する妻から見れば困った夫に違いないが、子ども達には良いお父さん。

自分の子どもに限らず、近所の子ども達にも大人気。

あるときなど、息子の誕生パーティだといって、家に移動動物園を呼び、近所の子ども達を集め、ギンギンのロックをかけ大騒ぎ。

近所の迷惑も考えない、度を越したこの騒ぎは人生さえも考えないような男に見える。

妻はインテリア・デザイナーでバリバリのキャリア･ウーマンだから、当然経済的基盤は彼女にある。彼女は本当は優しい夫と対等にやりながら、子ども達の教育を前向きに考えたいのだが、夫の資質とバランスがとれず､不満と怒りをぶっつける毎日。

でも、夫はそんなことぜんぜん気にしない。彼の頭の中は、愛する子ども達を楽しませることで精一杯なのだ。

ある日、妻が離婚を言い渡すところから物語りは展開していく。

裁判の結果、養育権を失った夫は、悪気のないゆえにひたすら食い下がる。ただ子供に会えなくなるショックが何よりも大きい。

思いあぐねた末、ついに夫は一大決心をする。つまり、妻が家政婦を雇おうと新聞に広告を出したのを知って、家政婦に化けて、元の妻と子供たちの家へ入り込むという荒唐無稽なアイディアを思いつき、実行に移すというもの。

声優の技術を生かして女性の声はお手のもの。体つきやメークは、特殊メークの仕事をしている兄を頼って、上品なスコットランドレディに仕上げてもらった。

まあまあ、なんって可愛い！楽しい！優しい男か！いや、こんな可愛くって楽しい､優しい女性見たことない！

ロビン・ウィリアムズが想像を越える演技力で、チャーミングなキャラクター像を作り上げているだけに、私はこの主人公を愛してやまない。

もしかして、今後、多くの女性がこんな男性を求めるのではないだろうかか……ただ、女性が自分自身の自立なくして、安易にこの種の男性を求めるのも危険だ｡ちゃんとしたキャリアがあってこその立場であること。世間から見たＢ級男を恥じないことだと思う。

この映画の中の妻は、そのてん問題はなかったはずなのだが、度々のトラブルについに“B級夫"のコントロールに疲れてしまい、子ども達の気持を察するまでもなく別れた。

女性が社会的、経済的、精神的にも自立を目指して突っ走ってきた今の日本といえども、まだまだシンデレラ願望価値は高い。

だからこの映画の家庭は、現実離れのした荒唐無稽な家庭に思われてしまう向きもあるだろう。

あるいはちゃんとしたキャリアを持っていても、仕事と家庭の両立に必死になっている日本の女性にとって、この映画における夫婦の関係はむしろ現実離れしたものにしか思えないであろう。

映画の中の妻は、キャリアを選んだばかりに、女としてのときめきを捨ててしまった人生だったのかもしれない……夫と別れた後の彼女には、それが痛いほど良くわかった。

だからこそ、昔の恋人が目の前に現れたことによって、心の奥底に残された男性への幻想が芽を出し始めた。

彼女は悪女じゃないから、自分から浮気をするわけでもないが、それは失せていた女としての緊張感を、再び取り戻すきっかけにもなっている。

アメリカ映画の中の女性達は、いつのときも完璧に自立した強い女たちである。夫と別れる際に、経済的な不安を伴わないのが頼もしい。

だらしない夫に不満ばかり並べて暮らすよりも、スカッと一発！人生２度楽しむ方が良いのかもしれない。

それにしてもアメリカ映画の男女関係は、驚くほど早い展開を見せてくれるから気持が良い。

女性にとって都合の良い男性がどんどん登場して共感を煽る。

『ミセス･ダウト』然り……

取りあえずは“B級夫"に乾杯！