ダンサー・イン・ザ・ダーク　

過酷な運命を生きる母親を、ビョークは見事に演じている。さすがアイスランドのカリスマシンガーであるだけに、現実から離れた空想の世界で演じるミュージカルは輝いていた。

ストーリー的には、ちょっと古い感じがしないでもないし、後半の展開は唐突過ぎる。秘密にしている遺伝性の目の病気を持ち、失明寸前の母親セルマ（ビョーク）が、やはりその目の病気におかされ、手術をしない限り自分と同じ運命を辿ることになる息子のために寝食を忘れて働く。そんな彼女の周りは親切な人ばかりで、特にカトリーヌ・ドヌーブが演じた職場の友人は、彼女の母親的存在である。しかし、息子の手術のために貯めたお金が元になって悲劇は起こるわけだが、どうして真実を言わずに秘密を守り通すのか・・・
真実を言うことが、息子の目をますます悪化させることになるから？
頑なにまで秘密を守り通すことが強さだとは、私は決して思わない。
息子を思う母親の愛は、ビョークの演技で痛いほど伝わってくるのだけれども、そんな母親の自己犠牲を、果たして息子が喜ぶだろうか。歯がゆい思いをしながらも、涙々で見た。それにしても、最後の絞首刑の場面はあまりにも残酷だ。
音楽はビョーク自身が手がけているだけに、その思い入れも相当なものだったと思う。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」・・・オープニングの暗闇から流れる「オーヴァーチュア」は、視力を失ったセルマがミュージカルに心のよりどころを求める心の世界を表わしているのであろう。

人間の強さって、なんだろうか？そんなことを考えさせてくれる映画だった。